「ゆとり世代は、こらえ性がないからすぐに仕事を辞める。そんなことでは、将来心配になるけどな」
年長世代から、こんな声を聞いたことがあります。
このような発言は、半分正しく半分間違っているのかもしれないな、というのが、紹介する本を読んだ後感じたことです。
福島創太(2017)ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか? 本書は、ゆとり世代を部下に持つ方々、ゆとり世代ど真ん中の方で特に転職を考えている方、これから就職活動を迎える大学生にオススメしたい本です。
私自身は、いわゆるゆとり世代ではありませんが、少し下の世代として接点はあります。ゆとり世代は、たしかに転職をします。しかも、1社ではなく2社、3社と転職をします。やはり、こらえ性がないからなのでしょうか。
もちろん、そういう人もいるでしょう。
しかし、それだけでは説明がつかないということをデータを元に示したのが本書です。
本書は、著者の福島創太さんが東京大学大学院に提出された修士論文を元にした一冊です。元リクルートというキャリアに担当教員の本田由紀先生のエッセンスが絶妙にブレンドされ、教育社会学の見地から、様々なデータを元に、ゆとり世代が置かれている環境について分析をしていきます。
本書では、伝統的なキャリア感とは異なる「同じ会社、組織に所属し続けないキャリア」という「自律的キャリア感」をキーワードとして、経済環境による影響、教育による影響を論じていきます。過度に個人の責任(自己責任)になってしまうこと、その影に隠れた社会の変化を明らかにしていきます。
その意味で、「こらえ性がないからすぐに辞める」というのは、正しい捉え方ではないと言えるでしょう。彼らにとって、自律的なキャリア感を持つことや転職は合理的であり、変化への適応なのです。自律的なキャリアを歩む転職者を「意識高い系」、「ここではないどこかへ系」と分類し、それぞれにとって転職とはどんな意味を持っているのかが論じられています。
福島創太著 「ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか? 」読んでます pic.twitter.com/DGyzFRqJCQ
— 橋本 諭 (@satoshi_hashimo) 2017年8月14日
他方、そんな若者たちは将来が安泰なのかといえば、そうでもない。リスクにさらされていることも明らかにしていきます。そして、そのリスクは、やはり「自己責任」となっていく様子を巧妙な「社会の罠」として描き出していきます。
その意味で、「将来心配になる」というのは、正しい指摘であるなと思います。
本書を読んで感じたのは、「ゆとり世代」と世代論にして、その人達自身のパーソナリティを語る前に、少なくとも彼らが生きてきた環境、これからの環境について考える必要がある、ということです。まずは、そこからなのでしょう。
「条件は今よりいい会社。以上。」ってのはすごいコピーだ。
転職していい会社に行ったとしても、そこよりいい会社はもちろんある訳で、その瞬間に転職支援会社のお客さん候補になる。— 橋本 諭 (@satoshi_hashimo) 2017年8月15日
本書では、キャリアアドバイザーによるキャリア面談のフィールドワーク結果も紹介されています。キャリア面談が機能している側面と、一方でという話。やはりこちらもウラハラです。その中には、ツイートしたような企業としての人材ビジネスの思惑も少なからず感じています。