自ら受けた教育を「良い」と捉え実行している!? 中小企業におけるHRD研究の論文を読んで

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少々マニアックな内容ですが、研究の話を。

先週、東京大学中原研究室のOBの関根さんらが主催された研究会に参加してきました。昨年出たばかりの「Handbook of Human Resource Development」というHRDに関するレビュー論文を集めたハンドブックを読むという読書会です。内容は、関根さんのブログが大変細かく、更に丁寧にまとめてくださっているので、そちらを紹介します。

せきねまさひろぐ: 「HRD 人材開発とは何か?輪読会」 1日目
せきねまさひろぐ: 「HRD 人材開発とは何か?輪読会」 2日目

全40章と大著であるため一人で読み進めるのは大変つらいものがあるのですが、協力しあうことで2日間で多くの章をカバーすることができ、貴重な時間となりました。また、実務家の方々とも話すことができたディスカッションの時間も有意義でした。改めて、関根さんら主催してくださった中原研の皆様に感謝致します。

中小企業におけるHRDの現在と未来

私が担当したのは「Nolan, C. T. and Garavan, T. N. (2014) HRD in Smaller Firms, in Handbook of Human Resource Development (eds N. E. Chalofsky, T. S. Rocco and M. L. Morris), John Wiley & Sons, Inc.」です。中小企業におけるHRDについてのレビュー論文です。

簡単に要約します。

 現在の中小企業におけるHRDは、現在経済における中小企業の重要性と比較すると不十分であり、さらにいくつかの問題を抱えている。まず、理論的な観点では、大企業を前提とした理論が中小企業にも当てはまることを前提としている。しかし、いくつかのエビデンスより、この前提が間違っていることを示している。つまり、中小企業を前提とした理論が必要である。
また、研究方法としての問題もある。中小企業を対象としたHRD研究は、「中小企業がいかにHRDを行っていないか」を述べたものが多くあるが、それは大企業を対象としたフォーマルラーニングを中心としているHRDに対応する研究手法を用いているためであり、中小企業の場合にはインフォーマルラーニングを中心とするため、そもそも研究方法として「見落としている」のではないか、と述べている。そのため、中小企業の実態を適切に把握するための実証的な研究が必要である。

本論文を読んで気づいた点としては、本論文でも指摘されている通りそもそも「中小企業」を対象とするということ自体がほぼ「企業」を対象とするくらい広いということであり、かなり対象を絞っていく必要があるということです。また、いくつか紹介されている事例は、日本においては違う傾向が出るかもしれないなと思うものもありました。これから、手がけていきたい分野であります。

他方、「あるあるだなあ」と思う点もありました。
たとえば、

中小企業においてHRD導入を決める主要なプレイヤーは「経営者」である(Hoque & Bacon, 2006など)
中小企業でのHRDは、通常オーナーや経営者の経験したものと同じパターンになることを示唆している(O’Dwyer & Ryan, 2000; Smith & Whittaker, 1998)
専門的な訓練を受けた経営者は、より正式かつシステマチックに従業員の育成を奨励している傾向がある。他方、徒弟制度で学んだ人は、それを最適な方法と考えている(Matlay, 1999)
すなわち、自ら経験した教育方法を「良いもの」だと受け取り、それを実行している。

オーナー経営者は、外部研修等の効果に対して懐疑的である(Bishop, 2008)

このあたりは、現場でのインタビュー結果などからも「ありそうだな」と感じるものです。特に、自ら受けた教育を良いものと捉えるというのは、中小企業だけの話ではないでしょう。我々のような教師もそうですし、企業における新人育成やOJTなどでも同じようなことがあるのではないかと思います。しかし、万能な教育方法が見いだせていない今、外部環境の変化だったり、教育を受ける側の個性だったり、提供側との相性だったりなどを考えていくと、必ずしも以前良かったものが、今も良いとは言えません。

自分の研究分野としても、またそれ以外においても非常に示唆的な内容でありました。

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