橋本ゼミでは、定常的な研究テーマと並行し、11月に実施される学祭にて研究発表を行うために毎年テーマを決めて活動を行っています。
2024年度のテーマは、「Z世代のスチューデントエージェンシー」です。
目次
スチューデントエージェンシーとは?
スチューデントエージェンシー(Student Agency)は、OECDが未来(2030年)の教育に必要なことを定めたLearning Compassの中で、中核的な基盤となる概念として紹介されているものです。
ぴったりの日本語をあてるのが難しく、様々な定義が存在します(故に、今年のテーマになっているのです)。
OECDでは、2030年は今よりも流動的な時代になっており、その中で生徒たちが自身や社会のウェルビーイング(よりよく生きる)のためにどんなことを学べばいいのかが考えられています。ただし、流動的な時代になるが故に、何を学ぶかではなく、何を学ぶかを自分で見出していく力が必要だとして、コンパス(羅針盤)となっている訳です。
私は、スチューデントエージェンシーを「自分自身が(ラーニング)コンパスを使って、不確実な世界で適切な行動を取れると信じられる能力」と捉えています。自分の可能性を信じて、自ら働きかける、責任を持った判断や選択を行うことといった能力だと考えます。そしてOECDでは、自らの利益だけではなく、自らを含んだ社会をより良い方向に向かわせることこそが重要であると述べます。単に、自分が得をするために学ぶ、他者よりも優位なポジションにつくために学ぶとは、全く異なる「学習観」があると思っています。
学習観という意味では、共同エージェンシー(Co-agency)もスチューデントエージェンシーに付随する重要な概念です。これは、他者との(良好な/適切な)関係を築きつつ問題解決ができる力といった概念です。つまり、スチューデントエージェンシーとは、「個の力」ではありますが、「個だけの力」ではなく、他者との関係性をも含んだ概念なのです。
さて、ざっくりとした解説ですが、2つの疑問が生じました。
一つは、概念としての「スチューデントエージェンシー」はなんとなく理解できた気がしますが、具体的な行動はどうなっているのか?です。
あれもこれもスチューデントエージェンシーとして捉えることができそうですし、逆にどれも違うような気もしてしまいます。概念と実際の行動がどう結びついていくのかは、様々な議論や検討を行うことが必要であるし、重要であるなと考えました。
また、2030年の子どもたちがテーマですが、今の学生たちでも同様のことはいえるのではないかと考えました。現在の子どもたち、すなわち「いわゆるZ世代」の人たちも、同様にスチューデントエージェンシーが重要ではないかと思います。ただし、今の大学生は近しいことは教えられてきていると思いますが、やはり前時代的なものが残っているとも考えられます。
そこで、橋本ゼミではスチューデントエージェンシーについて、概念と実際の行動がどのように結びついているのか、そしてZ世代にとってはどんな意味や意義があるのかについて考えてみることにしました。それが「#Z世代のスチューデントエージェンシー」です。
具体的には、大きく3つのメインコンテンツを用意しています。
ウミガメのスープ Student Agency Ver
一つは、スチューデントエージェンシーを考えるためのゲームです。「Learning is Entertainment」を標榜しているゼミですから、単に「スチューデントエージェンシーとは?」みたいなことはしません。
今回は、「うみがめのスープ」という問題解決のために常識や固定観念を打破して考える水平思考をおこなうゲームを題材に、「ウミガメのスープ StudentAgency Ver」を作成しています。
ウミガメのスープは、出題者が問題を出し、なぜそうなったのかを回答者が出題者に質問をしながら正答に迫るゲームです。回答者は質問をしますが、出題者はYesかNoかわかりませんで答えます。その質問の答えをもとに回答者同士で話し合ったりしながら正答を導き出します。
例えば、こんな感じです。
楽しみながら、スチューデントエージェンシーについて学んでほしいなと思います。
なお、昨年AIを用いてる橋本ゼミです。このウミガメのスープの問題作成にもAIを利用し、AIとの共同作業で制作を行なっています。
大山とうふを用いたスンドゥブの販売
もう一つが、模擬店として出店するスンドゥブの販売です。
大学が立地する伊勢原では、現在「大山どうふ」を地域商標にするために活動しています。それをささやかではありますが応援したいという思いからです。
詳細は以下の記事をご確認いただきたいのですが、重要な点は価格にあります。スーパーで販売されている豆腐は大量生産品のためかなり安いのです。もちろん、企業努力の結果ですし、それ自体を否定するものではありませんが、同じ感覚では「大山どうふ」を守ることはできないと考えました。
そこで適正な価格、つまり学祭の模擬店としては高額な価格で販売します。そして、なぜその価格になるのか、また、それを買うという消費者としての行動にどんな意味があるのか、大山どうふを応援するとはどういうことか? といったことを来場者の方々に「伝える」ということを目的に活動します。
さらに、模擬店で得た売上から原材料費や材料費などを除いた利益は寄付することを考えています。伊勢原市内の公園にベンチを寄付する「みんなのベンチ」に協力したいと思います。
簡潔に述べるならば、橋本ゼミとしてのスチューデントエージェンシーとは何かを表現していきたいと思っています。
過去最大本数の卒業論文の中間発表
最後に、卒業論文の中間発表(ポスター展示)があります。今年度は過去最高本数の18本の論文を準備しています。
今年の論文は、自分たちの経験を理論的な観点から振り返るものが多くなっています。なぜ、この結果になったのかを経験だけではなく、理論的な観点からリフレクションを行うものが多くあります。
卒業論文には、執筆者の個性が色濃く反映されるなと思っています。来場者の方々にも見ていただき、様々な観点からのご意見をいただきたいと思っています。
おわりに
それ以外にも室内の装飾などは2030年の学習環境(ゼミ室)をイメージしたりと、さまざまな工夫をしています。ぜひ、11月2日、3日の瑞木祭にご来場いただければと思います。