教室内の世界観を一瞬で伝えるためにできること

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はじめに

こんにちは。橋本ゼミ11期生の浅間葵、波々伯部渚と申します。

2022年11月5日から6日の2日間、湘南キャンパスでは「第44回瑞木祭~いつもの場所で、いつもと違うオモイデを~」が開催されました。私たちは橋本ゼミに興味を持ってもらうために、チラシを持って各ゼミを回りました。他ゼミを回ってみて私たちは、”ゼミ独特の世界観”がつくられてすごい、と感じました。今年の橋本ゼミでは 体験型ゲーム『HAS~君は成長できるのか~』、研究発表『橋本ゼミの歴史』『卒論中間発表』の3つのコンテンツを同じ教室で実施しました。体験型ゲームには「捜査本部」という設定がありましたが、教室に入った瞬間に世界観が伝わるかと問われたら肯定はできないと感じました。では、橋本ゼミではどのようにすれば世界観を伝えることができたのか、私たちは教室内の空間の使い方という観点で話を展開していきたいと思います。

「空間の使い方」₋アフォーダンス₋

このテーマを扱うにあたって、アフォーダンスゾーニングの2つの言葉を用いていきたいと思います。場所から世界観を伝えるとはどういうことなのか、空間を使うとはどういうことなのかについて、この2つの言葉を用いることで説明できると考えたからです。

まずアフォーダンスとは、知覚心理学者のギブソン(J.J.Gibson)が「与える」「提供する」という意味がある英語の動詞アフォード(afford)を名詞化した造語です。佐々木正人さんの著書『新版 アフォーダンス』では、『アフォーダンスは「環境に動物が与え、提供している意味や価値」』であり、『よいものでも、わるいものでも、環境が動物のために備えているのがアフォーダンスである』と記されています。

身近な例で説明してみましょう。あなたの目の前に1本の棒があると想像してください。あなたはそれを手に取って、軽く振ったりパキッと折ることができるでしょうか。それができた時その棒には「振ってもいい」「折ってもいい」というアフォードが含まれています。しかし、あなたがみつけた棒が建物を支える柱のようなものだとしたら、それは振ることも折ることもアフォードしないのでは無いでしょうか。

また同じものを見ても、環境や人の考え方によってそのものがアフォードする事も異なってきます。先ほどの棒の例にしても、ここでは「振る「折る」の2つのアフォードを挙げましたが、皆さんの中には別のアフォードを感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。自分がう気づけなかったアフォーダンスがあったとしても、それは無くなってしまったのではなく、そのもののなかには眠り続けているのです。

そこで、教室内に何かを配置したとき、そのものに対して多くの人が感じるであろうアフォードを考え、その考えを生かすことで、世界観を伝えるということにつながるのではないかと考えました。

次に、空間を使うということにおいて、ゾーニングの考え方について説明していきます。

「空間の使い方」₋ゾーニング₋

ゾーニングとは、「zoning」という英語を由来とした外来語で、ある空間を「区分け」し、区分けした空間を「目的に沿って活用」することを意味しています。海外では土地を用途別に区画する時にのみ使用されますが、日本では都市計画・住宅計画などの空間を区分する、コンテンツ・情報などの販売や利用を年齢によって制限する、感染リスクをやクラスターを防ぐ、など様々なジャンルで幅広く使用されています。

では、「目的に沿って活用」するとはどういうことなのか、具体的な事例と共に見ていきましょう。

目的別ゾーニングの話

【目的A】オフィス等で使われるゾーニング
オフィスではその場所が何を目的にして、どれくらいの人数で使われるのかを考えて空間を区切ることを目的としています。少人数で行う会議と入社式のような大人数で行うイベントでは目的も人数規模も異なります。様々なケースに対応できるような空間作成を行うことが大切です。また、動線が複雑にならないような通路や、受付、会議室、資料保管室などをどこに配置するかを考えることもオフィスにおけるゾーニングの1つです。

オフィスと言うと私たちと同じ学生には想像しにくいかもしれませんが、小学校・中学校など教育機関でも同じことが行われています。一般的に授業を行う教室と、体育館や武道場などは別々の目的で利用されています。様々なケースに対応できるような空間作成は身近でも行われていたのです。

【目的B】小売業(スーパー・コンビニエンスストア等)で使われるゾーニング

小売業では大きく分けて2つの意味でゾーニングが使用されています。

1つ目は売場構成(ゾーニングレイアウト)の意味です。 顧客が通る通路の幅や動線をどう取るか、商品をどうカテゴリー分けし、どのような並びで配置するかを決めます。 店内で主要な売場に誘導するため道を主通路、主通路に対する脇道をサブ通路と言いますが、広い店舗ほどこの2つを上手く利用した販売戦略が求められています。

2つ目は商品陳列の意味です。カテゴライズされた商品を縦配置・横配置どちらの方法で並べたほうがより売れやすいか、どの商品を隣り合わせにすると効果的かなどを考えて陳列するかを決めていきます。 “ゴールデンゾーン” という言葉を聞いたことはありませんか?スーパーやコンビニ等で最も目に止まりやすく手が届きやすい場所のことを指し、新商品や重点商品が並べられる場所のことを指します。また、最近ではキャスター付きの大きなカゴ「ジャンブルワゴン」の中に大量のカップ麺やドリンクを投げ入れられた状態(※2)で販売する”フェイシング”という陳列方法も注目されています。2021年にはテレビでも取り上げられました。

他にも施設や物、場面、業界など目的によって様々な意味で使用されています。

瑞木祭における「空間の使い方」とは

では、瑞木祭における目的とは一体何なのでしょうか。私たちは、お客様が教室内、ゲーム内をスムーズに楽しく回っていただくことだと考えました。そのために、アフォーダンスとゾーニングの考え方を利用する必要があります。

まず、ゾーニングの考え方を利用するために、オフィスの例にあるその場所が何を目的にして、どれくらいの人数で使われるのかを考えて空間を区切るを行い、小売業の例にある主通路、サブ通路を仮として制作します。

次にアフォーダンスの理論に注目し、壁やパネルを利用して、テーマごとに場所を。それらが与えるアフォードから区切られている場所が一つの空間であり、そこに世界観があると認識させることができます。

ここからは今年度の瑞木祭の配置を振り返りながら考えていきたいと思います。

今年度は画像①のような教室配置で行いました。

画像①の配置をもっと細かく見ると画像②のようになります。

特に壁や展示ごとを仕切るものはありません。入口から入った時に全てが目に飛び込んできます。すごいと感じる人もいるかもしれません。しかし、実際にはこの要素の説明がない状態で教室に入ります。どこが何を表しているのだろうと感じる人もいるのではないでしょうか。

その理由は、この状態ではゾーニングが出来ていないから、ということにあります。

では仮に教室の中心に向こう側が見えない壁があったらどうでしょうか。このひと工夫だけでHASと卒論は目的別に区切られたことになります。さらにHASの方は中央の壁と教室の壁が同じ色になるように工夫したら、そこはさらに独立した空間に感じるでしょう。もちろん、今回のHASでは卒論にもヒントが紛れているため、一見通れるようには見えない通路を用意する必要はあります。

また画像②では考察スペースが中心にありますが、これをグループごと個室に案内して映像を見てもらうようにすれば、それはもうその人たちだけの特別な空間になります。ここで言う個室は正確には”個室のように感じる空間”となりますが。

さらに先ほど主通路、サブ通路の話をしましたが、これにも一工夫加えます。サブ通路に見える主道路、もしくはその逆を1ヵ所以上作り出すのです。そうすることで参加者は正解を見つけ出そうと迷います。謎解き要素のあるゲームをスムーズに解けてしまっては面白くないですからね。

ここまでHASについて話してきましたが、卒論は何も変えなくていいのかと感じた方もいるのではないでしょうか。ここまでの話で卒論の方にも独自の空間が生まれています。卒論は研究発表、つまり学びの場だと考えられます。手を加えすぎてしまうと逆に環境が崩れてしまうため、中央の壁で十分だと考えました。

さて、ここまで今年度の教室配置を参考に見てきましたが、ここで話していることはあくまで私たちの主観でしかありません。実際に訪れていただいた方に、私たちが思っている通りに感じてもらえれるかが分かりません。そのため実際にどう感じられるのかを試す必要があります。ここでアフォーダンスの考え方が登場します。制作に関わっていないゼミ生に実際に体験してもらい、私たちの意図と実際にアフォードされた感覚が一致しているのかを検証します。それから得られたことを基に改良を加えていくことで、空間から情報を与える環境を作り出し、実際のお客様が教室内、ゲーム内をスムーズに楽しく回っていただくことにつながるのではないでしょうか。

橋本ゼミでは1つの教室で体験型ゲームと研究発表の2コンテンツを行っています。限られた空間で世界観を伝えるためには、それに適したゾーニングやアフォーダンス的取り組みが必要です。ターゲットを細かく絞ることが出来ない瑞木祭だからこそ、ここまでに述べてきたアフォーダンスとゾーニングの考え方を用いて、空間を操り、空間や使用しているものから情報を与えることが重要だと私たちは考えました。

おわりに

今年度の瑞木祭から空間の使い方について、アフォーダンスとゾーニングに注目していきました。アフォーダンスとゾーニング、この2つの言葉を知らない人の方が多いと思いますが、人は日常的にこの概念の中にいるということに気づいて頂けましたでしょうか。

来年度の瑞木祭は私たち11期生が主軸となって制作していきます。今回学んだアフォーダンスとゾーニングの考え方を生かして、私たちが他ゼミに感じた”ゼミ独特の世界観”を橋本ゼミでも感じていただけるようなコンテンツを提供していきたいと思います。

来年度、外部からの来場が緩和された際には、皆様のご来場をお待ちしております。

参考文献

 佐々木正人『新版 アフォーダンス』株式会社岩波書店(2015)
「ギブソンのアフォーダンス理論とは?意味や特徴、心理学実験をわかりやすく解説」

『 Psycho Psycho』 https://psycho-psycho.com/affordance/ 2022年8月25日
「コロナ禍に知っておきたいキーワード『ゾーニング』とは」『株式会社テラモト』

https://www.teramoto.co.jp/columns/13439/ 2021年12月10日
「ゾーニングとは? 店舗のレイアウトと陳列を見直して売上アップにつなげる「ゾーニング」の考え方」『ショクビズ!』  https://shokubiz.com/kouri/1362/ 2022年3月9日

「商品の並び方を変えて売上アップ!「陳列のマジシャン」知られざる技を大公開…11/14(日)BACKSTAGE(バックステージ)」『PR TIMES』  
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000753.000015357.html  2021年11月11日

執筆:橋本ゼミ11期生 浅間葵、波々伯部渚

 

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