中原先生の「研修開発入門」を読んだ。この本は、ご一緒させていただいた「企業内人材育成入門」が理論編であるのに対して、実践編に位置づけられる一冊。つまり、現場で研修に携わる人に向けた一冊と言うことになる。
本書をひと言で言うならば、スリッパで頭を殴られる事を覚悟で書けば「具体的」だ。読んでいる最中、このひと言が常に頭の中にあり続けた。
読んでいる最中、以前研修を行っていたときのこと、あるいは現在の授業における個別具体的な出来事が想起された。「あっあのときの場面の話だ」と言う具合に。同じく、「こうすれば良かったのか」と思う事も多々あった。そして、それは私の4月からの授業で当然改善される事になる。行動に直結するような内容がちりばめられているという意味で「具体的」なのだ。
本書を例えるならば、とても博学で経験豊富で親切な先輩が自分のデスクの隣にいて、いつでも相談に乗ってくれるような状態に似ている。
これは、かなり稀なことだ。博学だがタダの評論家だったり、経験豊富だが持論を押しつけたりするケースは多くある。仮に、こういった素晴らしい人がいたとしても、そういった人はまず間違いなく忙しく、いつでも話しかけられることはないだろう。ある意味奇跡だ。
しかし、書籍である本書が机の上にあるというのは、ちょうどこういった博学で経験豊富で親切な人が側にいてくれるような状態を体験できる。はじめから読んでいけば、体系的に話を聞かせてもらったのと同じであるし、悩んだポイントを索引を引きながらたどれば、聞きたい事に「具体的」に答えてくれるからだ。
例えば、現場のニーズをいかに研修に落とし込むかから、研修中にかけるBGMの話や、トイレ休憩に関する話まで入っている。当然のことながら、それぞれ全くレイヤーの違う話である。しかし、困っている最中の担当者にとっては、どちらがより重要であると言うことは一概には言えないからだ。
「具体的」である事は、もちろん望ましい。しかし、ある種の押しつけになってしまうこともある。「私の経験上、これが最も素晴らしい手法であるからして、これを使うべきだ。他の手法? 知らん」という本は残念ながら多い。人材育成とか研修とかの分野では、特に多いと言える。
本書では、もちろん、そういうことにはなっていない。それは、本書が中原先生の「研究知見を縦糸に、多数の実務家のインタビューからの実践知を横糸に(P5)」作られているとあるが、この2つが絶妙なバランスになっていることがゆえんだろう。偉大な先達の実践知を絶妙な具合にブレンドしているからだろう。
この本を皆が読んでいる事が前提になれば、企業研修はかなりの底上げが図られるだろう。そして、議論する前提が整っていくと言うことは、次のステージに行ける気がする。
「自分達は○○で苦労したから、君たちは○○では苦労しなくて良いよ。その代わり、次の苦労をしてくれよ。そして、またそれをフィードバックしてくれないか」という先達の声が聞こえてくるようである。